出迎えること

先日、戦争から帰ってきた兵士たちを
出迎えるセレモニーに参加してきました。

「戦争から帰ってきた…」なんて言葉は、
日本では遠い昔のことのように響くかもしれませんが、
アメリカでは、2001年のテロ事件以来、
何万人という若者たちが、イラクやアフガニスタンに
送られていきました。

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イラク戦争だけでも、死傷者はアメリカ側だけで、
10万人は超えると言われています(2012年の時点)。

脳に負傷を負った兵士の数は、
3万2000人(2012年の時点)。
PTSD(心的外傷後ストレス障害)を抱える人の数は、
戦地に送られた人の数と同じ。

トラウマの治療が追いつかないまま、
または、放置されたまま、
1日に18人の兵士たちが自ら命を絶っているということ…。
そして、その家族や周囲の人たち…。

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戦争は、どこの国が勝っても負けても、
人を激しく傷つける行為ですが、

第二次世界大戦の時は、少なくとも
アメリカの兵士たちにとっては、
ヒットラーというとてもはっきりとした「悪」
が存在し、その“悪”を制した“ヒーロー”という形で、
戦争から帰還した兵士たちは出迎えられました。

でも、その後のベトナム戦争、イラク戦争、
アフガニスタン戦争と、不透明で意味のわからない
戦争に送り込まれた若者たちは、

一体誰のために、何のために戦っているのか
わからないまま、マシンガンを担ぎ、戦車に乗り込み、
爆弾を落とし、人の命を奪い、負傷し、友を亡くし、
帰ってきても、出迎えられないどころか、
反戦意識が高まる中、白い目で見られたりもする。

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言葉ではとても表すことのできない壮絶な体験は、
家族にも、身近な人にも話せない。

そんな兵士たちを、きちんと出迎えようと、
毎年、”Welcome Home Ceremony”
(ウェルカムホームセレモニー)を行っている、
マイケル・ミードさんという人がいます。

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このセレモニーが行われる前の5日間、
戦争から帰還した兵士たちは、ミードさんと一緒に
森の中で共にキャンプをしながら過ごします。

自然の中で時間を過ごすだけでも、
癒しが起こっていきます。

静かな森の中で仲間と共に、
少しずつ痛みを吐き出していくのです。
そして、それを“詩”にして表現します。

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“出来事”を語るだけのストーリーは、
ドラマに引っ張られてしまって、
外に意識が向き、癒しが起こらない。

そうではなく、自分の痛みの中心に向き合い、
そのエッセンスを詩の中で表現する。

そして、その表現を受け止め、
出迎えてくれる人々と分かち合う…
分かち合って初めて、癒しが起こっていく…。

私が参加した時は、北カリフォルニアにある
とある教会でセレモニーが行われました。

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大きな木が植わっているプラントが用意してあり、
木の枝には、たくさんの白い布が結ばれていました。

亡くなった兵士たちの魂を示すものです。

セレモニーの最初、ポリネシアンの先祖を持つ、
とても大きな体の男の子が入ってきて、
ピアノを弾きました。

とても繊細で、キレイな音のメロディーを奏でる中、
他の兵士たちが入ってきました。

おどろいたことに、中にはベトナム戦争帰りの人も
いました。

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ベトナム戦争が終わってから、もう40年以上の
月日が経っています…。

順番に、ひとりひとりが、ゆっくりと、
震える声で詩を読み上げました。

40年以上も吐き出せなかった思いを、
やっと詩にして表現できた人。

家庭の暴力から逃げるように、
安全を求めて軍隊に入ったのに、
そこでさらなる暴力を受けた女の子。

誰にも分かち合えなかった暗闇、罪悪感、
恐怖、叫び、愛する人を亡くした深い悲しみ…

一言、一言がとても重く、でも、
吐き出されるたびに、確実に癒しが起こっていきました。

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ミードさんが言いました。

「彼らがひとりで抱えてきた重たい闇を、
これからは、あなたたち出迎えてくれた人と共に、
分かち合っていきます。だから、受け取る人は、
ちょっと重くなるよ。いいかな?」

みんな、笑顔でうなずきました。
だって私たち、そのために参加したのだから…。

そして、ミードさんは、時々、詩の合間に、
アフリカのドラムを叩きました。

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すべての人が詩を読み終えた後、
みんなで歌を歌いました。

アフリカから来た太古の歌。
魂を出迎える歌。
魂を慈しむ歌。
魂を癒す歌。’

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最初は、壇上の上で詩を読んでいた人々と、
出迎える私たちとの間に、
境界線のような隔たりがあったけれど、

歌いながら、みんなで手のひらを開いて上に上げて、
お互いに向かい合い、歌いながら、
私たちは、確実に大切な何かを共有し、
確実に、癒しが起こっていきました。

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出迎えることの大切さ…。

仕事から帰ってくる時、
学校から帰ってくる時、
買い物から帰ってくる時、
遊びから帰ってくる時、

どんな時でも、ちゃんと帰れる場所があり、
出迎えてくれる人がいること…
そんな当たり前のことが癒しにつながっていく。

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日常の中で大切にしたいですね、
心からの、おかえりなさい。

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